歩みを支えた鼻緒が切れかけていた。 まだ、夜を帰さない風が吹いて。 見慣れた帰路。 指を鳴らして構える桜に、平日の陽が座っていた。 尾を振って追い駆ける好意。遂行の日を、膝を揺すって待つ計画。 傷のない耳垂で計った体温。 意に介さない風貌で、憂…
荒れた肌に、指に。 忙しく過ぎる暮らしが染みて。 痛覚にちょっかいを出すこの頃。 暮らしや、吸い込んだ酸素に蔓延る憂鬱と戦っていた期節は過ぎて。 眼前の敵は、仕事から来るそれらだ。 計画を立てて、好意を募らせて。 待ち望み、忍ぶ日々の所為で。 計…
寒さや、酩酊や、好意に振り回されている間に。いつの間にか年が明けていた。 こんばんは。 中吉の酔っぱらいです。 一月の尾は遠く。 二月の瞬きに息を呑むこの頃。 今年は、楽しいことを沢山したいな。 今は、仕事が全体的に「おばか」過ぎてどうしようも…
疫病は、相も変わらずに悪戯を続けている。 やる気をなくして、実家に帰る日はいつになるのか。 同調圧力で隠した口元。 繊維の裏で、舌を出してみたりした。 年の瀬らしく今年を振り返れば。 寒さに顔を顰めるまで、ずっと一人だった。 憂鬱とか、やるせな…
「戻れなくなるよ」 あの小説を読んだのは、いつのことだったか。 上質紙に綴られていた台詞が、今更になって頭の中で響いた。 齢を重ねれば重ねる程、「頭」というものは良くなるものだと思っていた。 どうやら、僕はそれにあてはまらないらしい。 隠す気の…
いつか、あなたが。 猥雑な色恋に疲れたとき。 此処で、硝子を冷やして待っています。 相対した寒気。 曇り空に塩を撒いて、四股を踏み始めたこの頃。 相変わらず、指が痛い。 「指痛てぇ」と小言を綴ってから、一月程が経過した。当初に比べれば、大分良く…
指が折れた。 病院には行ってないんですけど、十中八九。 折れたか、割れたか。何かが起きてる。 「痛てぇ!ぶつけた!うわ!痣だ!」 みたいな、素人の痛みのそれとは違う。 これはもう玄人の域。 痛みと腫れ、抱えた熱さは疫病のそれ。 看護師さん、陽性で…
ずっと、昔を思い返している。 ようやく、長袖が頭を過ぎる気温になったり、ならなかったりしてきた。 夏も、太陽も。 もう少しだらけてもいいのではないか。 こんなに頑張らなくてもいいのに。 もしかしたら、既にだらけていて。 夏の契約期間内に仕事が終…
千鳥足の足首を掴まれた朝。 値段に似合わない安い焼酎を呑んでいた。 コミュニケート嫌いを盾に、酔いどれてシャロンを歌えば。 派手な服を纏った女子越しに、齢の肥えた男が泣いた。 紙巻きを咥えると、視界の左から腕が伸びてくる。 「慣れないから」と火…
先々週の末から、限界月間が始まった。 六月に手を振り切る迄、限界は続く予定だ。 先月末に、仕事を変える決意をした。 苛立ちや、鬱屈。 他の追随を許さない、呆れてしまうほどの飲酒量。 恐らく、それが原因の体調不良。 諸々と相談して、現在の仕事を辞…
走行の目印に引かれた白線と、湿気た砂が混じった校庭のような。 そんな色の朝。 部屋に射す光は頼りなく、それでも。 急かさないような明るさは嫌いじゃない。 水が湯に育つのを待つ間、顔を洗って鏡を見る。 白目の端に、昨晩の酩酊の影がちらついた。 液…
所用で呼び出された土地は、思い出と後悔が混ざるあそこに、とても近い場所だった。 今日の臍辺り。 文明の利器に頼って乗り換えを済ませ、改札に躓きながら地上へと顔を出した。 見覚えのある景色に、霧雨がかかっていた。 忠敬のそれよりも、数十倍大雑把…
三日に一度は頭に痛みを感じるのだけれど。 今朝のそれはとても酷かった。 頭を抱えながらロキソニンを探した。 焼酎に気の抜けた炭酸水を混ぜて、ロキソニンを腹に流し込んだ。 真っ先に思ったことが「これ、もう水割りじゃん」だったので、こんな頭ではそ…
窄めた肩が、もう遠い昔のことのように思える。 嫌がらせをする汗に、友人と出会った頃を思い出す。 丁度、袖を捲り始めた五月のことだった。 路上で喧嘩したり、マイクで殴られて歯が欠けたり、素面ではとても言えないことを言いあったり。 雨の日の新宿で…
今日は「ダメな日」だった。 起き抜けから、いつもより身体が重かった。 普段から飲み過ぎているのに、昨晩は更に飲み過ぎた。 仕事も放り投げて、ぼーっと酒を飲んで過ごした。 うるさくない音楽を聴いていた。 ここ二、三ヵ月。 食欲がなくなってしまった…
「にらめっこ」 眠りについた商店街を起こしてしまわないように。 傘を寄せて、歌う代わりに煙を吐きながら歩いていた。 足音は、雨音に消されて。 傘の内側で、吐いた煙が雨宿りをしている。 この町が濡れたときの匂いを、僕は知らない。 爪先の果てで待つ…
不眠も含んだ不調は相変わらずだ。 やりたいことと、やらなければいけないことを天秤にかけながら。 眠っているはずの夜を潰していた。 天気予報か、はたまた政治家のお話か。 不明瞭な意識で朝を迎えた。 曇り空の下、外に出かけなければいけなかったので。…
一睡もせずに、酒を飲み続けていたせいか。 開けっ放しの窓から忍び込む風に、梅雨前によく漂う匂いを感じたせいか。 珍しく太陽がやる気を出していたせいか。 はたまた、単に気のせいか。 今日は、とても気分が良い。 アジアの純真を口ずさむくらいには、気…
「寒いね」 なんて、ありきたりなことを友人にぼやいた。 返事はないまま、二月が終わった。 指を二本折り曲げて、春を待っている。 ドラム式の洗濯機が欲しい今日この頃。 防護服を着込んで酒を飲んでいる。 先日、思いも寄らない人から「バンドやりません…
窓の外から、大好きな音が聞こえてきた。 濡れた路面の上で車輪が回る音。 眠れずに、天井を見上げ呆けている。 車輪の音を背景に、酔い続けている。 好きな夜だ。 久しぶりに、新宿の方に飲みに出たいな。 知らない酒場に行きたい気分だ。
隣席の女性に声を掛けられて、痛い頭に酒を垂らしながら相槌を打っていた。 素性に関する質問をしていないので、彼女について分かることは髪が黒いということぐらいだ。 帰宅した現在。 彼女が、読点の代わりにジントニックを飲みながらしていた話の八割も覚…
ゆっくりと階段を下りて、地獄へ向かうように。 日付を捲る度に体調が悪くなっていく。 うわぁ。 体重は、分かりやすく健康状態を教えてくれる。 ここ一週間で三キロ近く体重が落ちた。 うわぁ。 常飲しているものが酒なので、飲酒量はこれ以上増えないと思…
「くそったれ!!!!!」 と、台詞に日本語字幕を付けて言いたくなる時がある。 此処はスラム。腰に隠した鉄屑に、鉛が四発。 鎖骨の下辺り、黒い肌の上で疼く傷跡は誰かの忘れ形見。 怒りで震えている携帯から、飼い主の高笑いが聞こえてくる。 耳障りなそ…
「嫌な夢ばかりみる」 数日前にそう綴った。 嫌な夢というものは、目が覚めても頭に残ってしまうもので。 起き抜けに煙草を吸いながら、夢をなぞり返すことが日課になってきている。 以前、友人が夢日記なるものを書いていた。 それを聞いた別の友人が「夢を…
最近は、毎晩嫌な夢をみる。 覆面の大男に追われたり、脇腹に刃物を突き立てられたり。 所謂、怖い夢ではないのだけれど。 友人や、恋人や。 もう会えない人達ばかりが出てくる。 「夢で逢えたら」 詩の上でよく見かける言葉。 目が覚める度に、もう会えない…
雨は、昼頃に雪になった。 「街を撫でてほしい」 昨夜、そう雪に願ったはずなのだが。 「撫でる」というには、些か力の加減が出来ていないようだった。 機嫌が悪そうな風に乗ったそれは、斜め上から勢いよく街にぶつかっていった。 窓から手を伸ばして触れて…
「明日、雪降るってよ」 口調は定かではないが、ラジオからそんなような声が聞こえた。 気になって調べてみれば、確かに降雪の予報が出ていた。 思えば一月も半ばを過ぎて。 これがライブなら、全く頭に入らない土地いじりのトークが始まりそう頃だ。 年齢を…
欠伸をしている間に、年が明けていた。 あけましておめでとうございます。 何通かの年賀状が郵便受けに投げ入れられていたこと以外、年始らしい出来事はなかった。 とくに、変わらない平日を繰り返している。 限った話ではなくて、いつだってそうなのだけれ…
朝から、一段と冷え込んでいた。 今年も木枯らしは吹かなかったらしい。 大体の面倒事がそうなように、気づかない間に冬は隣に座っていた。 木枯らしが吹かなかったと言われても。 「…この風。木枯らしかっ!」 なんて、刺さる風に顔を顰めたことがないので…
雨降りの月曜。 久しぶりに、強い雨が窓を叩いたので。 朝方から気分が良かった。 午後の頭辺り。 外見がダサくなってしまった煙草を買いに外に出たら。 雨上がり、なんとなく夏の匂いがして。 「うわぁ」 なんて、馬鹿みたいな声を出していた。 午後の鼠径部…