片目の赤。
「くそったれ!!!!!」
と、台詞に日本語字幕を付けて言いたくなる時がある。
此処はスラム。腰に隠した鉄屑に、鉛が四発。
鎖骨の下辺り、黒い肌の上で疼く傷跡は誰かの忘れ形見。
怒りで震えている携帯から、飼い主の高笑いが聞こえてくる。
耳障りなその声を勢いで消してから、慣れた手つきで数字をなぞる。
「なんだい、こんな昼間から」
暴力協会の修道女、性別に合わない低い声。
「あるだけ用意してくれ。派手に吹っ飛ばせるやつだ」
「厄介ごとは御免だよ」
「火薬と鉄を売るのがお前の仕事じゃなかったか?」
「分かったよ、高値は覚悟しときな」
「安心しな。飼い主様から、妹と金を持ち帰る」
「それは、楽しみだ」
「何時に揃う?」
「あんたが一本吸い終わる頃には」
「分かった」
「あぁ。パーティーの」
『始まりだ』
始まるか、馬鹿。
始まってたまるか。
僕の肌は黒くないし、銃傷もない。
あるのは三つ、肺気胸のそれだけだ。
でも、そんな黒人俳優になって。一人で怒号を飛ばしたいときだってある。
どうにも、こうにも。
物事はすんなりとは進まない。
万能な潤滑剤があれば、少しは楽になるものだろうか。
若しくは、「派手に吹っ飛ばせるやつ」か。
いずれにせよ、そんなものはこの街にはない。
赤目の隻眼に睨みつけられて、いつからか歩けずにいる。
立ち止まって呆ける僕の前を、息巻いて駆動する四輪達が横から過ぎていく。
くそったれだ。