浅瀬にて、酔いどれて。

暮らしの小言です。

推敲の半ば。

走行の目印に引かれた白線と、湿気た砂が混じった校庭のような。

そんな色の朝。

 

部屋に射す光は頼りなく、それでも。

急かさないような明るさは嫌いじゃない。

 

水が湯に育つのを待つ間、顔を洗って鏡を見る。

白目の端に、昨晩の酩酊の影がちらついた。

 

液体の成長を湯気が報せた。

湯呑みにそれを注いでから、唇が嫌がらない温度まで冷めるのを待った。

 

まだ開ききっていない眼で白湯を飲むこの時間。

この時間が、一日の中で最も素面に近い。

 

どうせ、この後直ぐに酒を飲むのだが。

少しでも、落ち着いている頭で。

一日の計画を立てたり、素面に近い状態で考え事をしたり。

憂鬱に悩んだりする。

 

計画を立てたところで。

その大抵は上手くいかない。

突拍子のない障害や、酩酊や、やる気の問題だ。

 

温まりかけた身体を、いつかの視線のように冷えた風が、窓を抜けてつついてくる。

 

「構って欲しいのか」

そう思って、窓から顔を出した。

僕と同じように、この街もまだ寝ぼけ眼らしい。

 

雨を手に持った空。

今にも投げ出しそうな空は、球場に立つ投手のそれによく似ている。

 

打ち返す心構えもないまま、バットの代わり。

皺のついた煙草に火をつけた。

 

煙を呑んでは、吐き出しながら。

呆けた面で、相手の球種を予測する。

「頬が不快になる霧雨」

この手の色をした空の得意な球種だ。

 

やりづらい相手。

疫病に草臥れた街に、歓声はない。

 

句読点の代わりに白湯を口に含みながら。

そんなくだらないことを考えたりする。

 

今日の一本目を吸い終えて。

腹八分目の灰皿に吸殻を食わせる。

 

煙をおかわりして、頭上の相手の顔に、くだらないもの思いを浮かべてみる。

 

内向的な推敲を繰り返す暮らしの中。
足拍子も、胃液と吐いた憂鬱も。
くの字に曲がった蒼い煙草も。
使い捨てた情事も、惜別に俯いた夜も。

どうしようもない離別や、猥雑な色恋も。
噛んだり、噛まれた耳朶も。

 

愛しく思える、曇った朝。
素面に近い頭でこんなことを思うのは。

多分、寝惚けているからか。


なんなのか。

 

なんだか優しくなれているようで。

口元で遊ぶ煙が、少しだけ軽くなった感じがした。

 

酒を約束したまま、出かけれていない人。

していないけれど、出かけたい人。

きっともう、一緒に出かけれない人。

もう、一緒に出かけれない人。

 

疫病が悪戯に疲れたらさ。

色恋や、暮らしや、それらしい話題の種に酒を浴びせたり、浴びせなかったりして。

 

遠いことのように思える、それらしい酒の席を設けようぜ。

 

葬式で流す曲のプレイリストを考えながら。

そんな日を待っている。

 

二本目の吸殻を棄てて。

 

焼酎に炭酸水を混ぜた。

 

おはよう。

今日も始まるぜ。