CRANKY
雨は、昼頃に雪になった。
「街を撫でてほしい」
昨夜、そう雪に願ったはずなのだが。
「撫でる」というには、些か力の加減が出来ていないようだった。
機嫌が悪そうな風に乗ったそれは、斜め上から勢いよく街にぶつかっていった。
窓から手を伸ばして触れてみると、低めの体温に衝突したそれは直ぐに溶けてしまった。
積もりそうになかったし、積もることはなかった。
所用で大久保に出かけた。
いつだったか、恋人の帰路にくっついて歩いた線路沿い。荒廃感のある高い壁。
雪こそ降っていなかったけれど。
今日みたいに寒くて、機嫌の悪い風が吹いていた。
怪しい居酒屋で呑んだハイボール。
酩酊の果てに繋いだ手の温度は、季節の所為で分からずじまいだった。
そんな17歳の冬。
いつの間にか雪は降り止んで。
濡れたアスファルトを、淡い街灯が照らしている。
赤や緑。
催しが過ぎたイルミネーションは、街が渇く前に外されるのだろうか。