これは、冬。
朝から、一段と冷え込んでいた。
今年も木枯らしは吹かなかったらしい。
大体の面倒事がそうなように、気づかない間に冬は隣に座っていた。
木枯らしが吹かなかったと言われても。
「…この風。木枯らしかっ!」
なんて、刺さる風に顔を顰めたことがないので。もし木枯らしに出会っても、きっと僕は気づかない。
冬。
冬が好きだ。
項を伝う汗の不快感も感じないし、眩しさに目を瞑ることもない。
なにより、虫がいない。
気温だけでいえば、秋が一番好きなんだけれども。
虫のいない秋なんてあれば、とても嬉しい。
思い返せば。
綴るような思い出達は、冬が背景のことが多かった。
揺れる雪や、離別や、情事や。
そんなことばかりだけど。
机の対岸。
海を閉じ込めた硝子が汗をかいていた。
流氷が底についた時、まだ僕に理性があれば。
大人しく、別れを告げるつもりでいた。